スタンドバイミー in マチュピチュ


ペルー観光のハイライトと言えばマチュピチュ。
結論から言うと、わたしの中では「うん、まあ想像通りだね」という感じだった。

有名なあの角度から撮ったマチュピチュの写真を、子供の頃から山ほど見て来たからだと思う。ウユニ塩湖の時と同じで、アマノジャクなわたしは、予備知識が多すぎると(と言うほどマチュピチュについて調べていた訳では無いけれど…)、期待と想像が先行して感動に至りにくい。ホント、贅沢者だ。

今がまさにハイ・シーズン(乾季の6月)のマチュピチュは、これも予想通り観光客があふれていて、実際のところあの有名な角度で写真を撮るのは順番待ちだし、他人を入れずに写真を撮るのはひと苦労だった。

このマチュピチュ自体よりも、遺跡の麓にあるマチュピチュ村にたどり着くまでの道のりが、予想以上に面白かった。

マチュピチュ村に行く方法はいくつかあって、クスコかオリャイタイタンボからペルーレイルの列車に乗る方法がおそらく王道。この列車の中にもいくつか種類があるらしいのだけれど、節約旅に慣れてきたわたしからすると、一番下のランクの列車でもかなり豪華に感じた。(なにせ、列車と聞いて想像していたのがインドでよく乗った列車だったから)

ただし、わたしがこの列車に乗ったのは遺跡からの帰りの話。
行きは、クスコからミニバスに乗って水力発電所まで行き、そこから遺跡の麓のマチュピチュ村まで2時間歩く方法を採った。節約しているバックパッカーにとっては、おそらくこちらが王道。スタンドバイミーと呼ばれている道だ(こう呼んでいるのは、おそらく日本人だけだろうけど)。

まずは、いろは坂も真っ青の曲がりくねった崖道を、ミニバスの中で身体を大きく左右に振られながら進んで行き、約7時間で水力発電所に到着。そこから、マチュピチュ村まで続く線路沿いを、延々と歩いて行く。もちろん、歩くための整備された歩道がある訳でもなく、線路の両脇には木々が鬱蒼と茂っている。ミニバスを降りた時に別のツアーで来ていたガイドが簡単に道を説明してくれた。と言ってもほぼ一本道だし、歩いているバックパッカーは結構いるので、迷う心配は特にない。「列車の警笛が聞こえたら、十分脇に避けるように」とか、そんな基本的なこと。

マチュピチュは山の上にあるイメージだった。
確かにマチュピチュ村からは小さな山を越えて行くのだけれど、実際のところ標高2,400m程度で、3,600mのクスコよりもうんと低い。だから、しばらく標高の高い所を来ていたわたしには、木々もずっと青々として濃く、久々にムンとした緑の勢いを感じた。

歩き始めてしばらくすると、スタンドバイミーよろしく、線路は突如として川を渡る鉄橋に変わった。ここで「おぉ~!」と興奮して勢いよく踏み出したけれど、すぐに立ち止まって数歩で戻り、線路脇の歩道へ…。
だって枕木と枕木の間の距離がまばらで、広い部分は30cmくらいありそうなのだ。おそらくわたしや普通の体型の日本人なら、足を滑らせれば、そのまま落ちて死ねる…。そして、もしもここを歩いている時に列車が来たら、逃げ道が無い…。ほとんどの人がわたしと同じ歩道を歩いていたけれど、線路上をそのまま歩いている欧米人男性も何人かいた。

鉄橋を無事に切り抜けてしばらく行くと遠くから列車の警笛が聞こえてきたので、線路の通っている砂利道の高い所から下に降りて、草むらに避けた。自分では「十分に安全な距離」と思って余裕でカメラを構えていたのに、列車は私の顔から30cmくらいの距離をゴォォォ~! と勢いよく通り過ぎて行った。列車の上から車掌らしき人が苦い顔でこちらを見ていたのが、チラッと見えた…。

堂々と線路の上を歩ける機会なんて、滅多に無い。なんだか嬉しくて嬉しくてワクワクしていて、ほぼずっと線路の上を歩いた。枕木の距離がまばらなので、その上を歩こうとすると、時には小走り、時にはジャンプ。

そのうち、いつの間にか、スタンドバイミーの曲が頭の中で鳴り出して、唇に伝わってきた。小学生の頃、あの映画が好きで好きで何度も観たし、なぜか家にあった弦の緩んだギターであの曲を弾けるようになりたくて練習してみたり(弾けるようにはならなかったけれど…)、意味の分からないまま英語の歌詞を暗記したりしていたなぁ、わたし。それが記憶の底に残っていたらしく、歌い出したら次々と歌詞が流れてきた。

2時間強のこの道のりが、わたしにとっては楽しくて楽しくて、しょうがなかった。
6時を過ぎると完全に陽が沈んでしまって、周囲は一気に暗闇に包まれ、そこを列車の警笛が聞こえる度、ビクビクしながら早歩き。たまたま同じペースで歩いていた3人グループの人達がライトを持っていたので、わたしにも「一緒に行こう」と声をかけてくれて、足元を照らしてくれた。一人旅で、他人の温かさが心に染み入る瞬間だ。

最後に二つほど短いトンネル。ここも列車の警笛にドキドキと耳を澄ませながら通り抜け、無事にマチュピチュ村に到着した。日本の温泉街を彷彿とさせる風景に、数年前に訪れた愛媛の道後温泉を懐かしく思い出し、激しく郷愁を感じながらスタンドバイミー・ウォーキングは無事幕を閉じた。

旅の楽しみをどこに見出すかは本当に人それぞれだけれども、マチュピチュを訪れるのに十分な時間のある人には、この行き方を激しくおススメしたい。